7.根源


 死神と呼ばれる魔物のような姿のそれは、ふり向いて、ばさりと黒いフードを外した。

「儂じゃ!」

 ――現れたのは、アルハンの顔だった。

「アルハン? どうしてここに」

 フィオナが訊ねると、アルハンはイザクの方に向き直りながら、

「妙な魔力の気配を辿って来てみただけじゃ。
 ……ふーむ、こっちが吸血鬼じゃったか。まあ、助太刀くらいしてやろう」

 と、鎌を持ち直した。
 シェベットはほっと息をついて、

「そりゃ、ありがたいけど……その羽と鎌はなんなんだよ!」
「説明は後じゃ!」

 そうシェベットに言い返して、アルハンは床を蹴った。
翼をうち、低く滑空しながら、イザクに向かって鎌を振り上げる。

「誰だか知らねえけど、一人増えたところで――!」

 イザクは鎌の刃を両手で掴んで受け止め、弾き返した。
アルハンは少し後ろに下がって、ふわりと床に着地する。

 その様子を見て、サニーは少し首をかしげ、

「翼の方は、よくわからないが……鎌の刃は魔力で出来ているようだ。
 あの柄は、元は魔術師の杖なんじゃないか?」

 アルハンはふり向かずに頷いた。

「正解じゃ。翼は儂のかわいい使い魔よ!」

 答えると、またイザクの方へと向かってゆく。
 シェベットは、はああ、と大きくため息をついた。

「ああ、肝が冷えた。吸血鬼とレイスのアンデッド大戦争かと思ったぜ」
「地獄か」

 そう言って、サニーはちらりとシェベットを見た。

「……ところで、お前、その怪我」

 爪と稲妻で切り裂かれた頬と肩から、血が流れている。
 サニーは、見せてみろ、とシェベットに手招きして、呪文を唱えた。
 ソラヤは植物の力を借りた癒しの魔法を使うけれど、
サニーの魔法は天の星々の力を借りるものだ。
 日差しの光のような輝きと暖かさが手のひらに灯り、シェベットの頬と肩の傷を塞いでゆく。

 シェベットは痛みの消えた頬や肩に触れてみて、
「おお」と感嘆の声を上げると、笑った。

「いや、しまったな。
 怪我したら、ソラヤに治してもらおうと思ってたんだが……
 ソラヤがいないときにやっちまうとは――」

 それを聞いたサニーは、ふいと視線を逸らし、あからさまに顔をしかめて舌打ちした。
 その後ろでフィオナも、そうじゃないでしょう、と言わんばかりに、
苦い表情で首を横に振っている。

「あ……すまねえ。冗談だ。ありがとよ」

 シェベットは真面目な声色に戻って、そう言った。
 サニーは、シェベットから目を逸らしたまま、何か諦めたようなため息を一つついた。

「……礼を言うなら、私の方こそ。
 ――あの、傷跡を治す薬は、お前が用意してくれたそうだな」

 シェベットはうっと詰まってから、フィオナの方を見た。
 フィオナは小さく肩をすくめて、

「昼間に、薬屋へ聞き込みに行ったときにね」

 シェベットは少し照れたように苦笑いして、額に手をやった。

「ああ。そか。……バレると、なんか恥ずかしいもんだな。
 まあ――でも、効くだろ、あの薬?」
「よく効いている。ありがとう」
「なら良かったよ。間違いなく消しちまったほうがいい傷ってのは、あるもんな」

 そんなことを話していると、アルハンから叱咤するような声が飛んできた。

「――お喋りは、この状況が片付いてからにしてくれんかのう……
 全て儂任せにせんで、戦わんかい!」

 フィオナが「加勢しましょう」と剣を構えて、シェベットは頷くと、サニーを見た。

「その隙に、あんた、もう一回あの魔法使えないか?」
「……そうだな。
 アルハン、その使い魔とやら、陽の光は平気か?」

 サニーが声をかけると、アルハンは「全く問題ないぞ!」と答えた。
一方イザクは、ぎくりと顔を引きつらせる。

「げっ……それはマジでやめろ! おっさん、そこどきやがれ!」
「嫌じゃよー」

 アルハンはわざとらしく唇を尖らせた。
イザクはぎし、と奥歯を噛みしめるようにして、
手に紫色の稲妻を纏いつかせながら、アルハンに躍りかかった。

 バチバチと音を立てて猛る稲妻に向かって、アルハンが鎌を振るう。
魔力の刃に斬り裂かれた稲妻は散り散りになって消えてゆき、
しかしイザクは怯む様子もなく、また手から稲妻を放つのだった。
その隙間を縫うようにして、フィオナとシェベットが代わる代わるに攻撃を試みる。
 そして、その後ろで、サニーは呪文を唱え始めた。


 さて、怪しい魔力の気配を追ったラーフラとユーリが辿り着いたのは、
市場の裏手の住宅地だった。
市場に店を出していたり、そこで働いていたりする人々が、多く住んでいる場所だ。

 一軒の家の前で、先に到着していたソラヤと、炎の精霊が佇んでいるのを見つけて、
二人はそちらへ駆けていった。

「魔力の出所は、この中……のようですね」

 息を切らせ、膝に手をつきながら、ラーフラは家を見上げた。
家自体は、ごく普通の佇まいに見えるが……。
 ソラヤが少し声を潜めて、

「今、中の音を聞いてみていたんですが、家の人はまだ起きているみたいです。
 話し声は特にしないので……人数は一人か、
 多くてもせいぜい、二、三人くらいじゃないかと思います」
「じゃあ――ノックしてみる、か?」

 ユーリは拳を持ち上げて、二人の顔を見る。
「とりあえず、それしかないでしょうね」と、ラーフラが答えて、ソラヤも頷いた。

 念のため、すぐに戦闘の体勢を取れるようにして、ユーリは家の扉を叩いた。
 すると、少し間を置いて、

「……誰だあ、こんな時間に?」

 と、眠たげな、うんざりしたような男の人の声が、家の中から返ってきた。

「ごめんなさい、夜遅くに。妖精のとまり木亭の冒険者なんですけど」

 ユーリが声をかけると、

「お……おう、あんたらか。今開けるよ」

 男の声は我に返ったように、少し雰囲気が変わった。
あれ、と、ユーリとラーフラは思った。なんだか聞き覚えのある声だ。

 がちゃりと鍵を開ける音がして、扉が開く。
 中から現れたのは、オーバンだった。

「オーバンさん!? えっと、こんばんは」
「おう、こんばんは。どうしたんだ、一体……? 何か用かい?」

 オーバンは驚いた様子で、ユーリ達の顔を見回している。

(オーバンさんの家だったのか。なんで、ここから怪しい気配が……?)

 どう話を切り出したらいいのか、ユーリが迷っていると、
横からずいっとソラヤが顔を出した。

「すみません、ちょっとお訊ねしたいことがあって。
 最近……何か変わった物を手に入れたとか、ありませんか?
 この家の中から、マジックアイテムの気配がするんです」

 綺麗なエルフの少女が現れたのに面食らったのか、
オーバンは目を丸くして、ぱちぱちとまばたきした。
それから、首をかしげて腕組みをすると、

「マ……マジックアイテム? さあ……わからねえな。
 俺はしがない肉屋の店員だぜ。
 そんな――マジックアイテムだとか、すごそうな物とは縁がないよ。
 何かの間違いじゃないのかい?」

 ユーリは「でも、」と拳を握って、

「吸血鬼の事件に関係があるかもしれないものなんだ!
 一応、家の中を見せてもらったら、ダメかな?」

 オーバンは「え、」と、表情を引きつらせた。
ちらりと家の中をふり返って、視線を泳がせながら、

「ええとな、その……今、彼女が来ててよ。明日の朝じゃあ……だめかい?」

 なんだかしどろもどろな様子で、そう言った。
「えっ――だけど」と食い下がろうとしたユーリを止めて、ラーフラが前に出た。

「――すみません」

 ラーフラが早口に呪文を唱えると、ふうっと湧き出てきた霧がオーバンを包んだ。
オーバンはふにゃっと膝から崩れ落ち、床に倒れてしまった。
……眠ってしまったようだ。

「ラーフラ!」

 驚いて声を上げたユーリに、しっ、とラーフラは口元に指をあてて、

「何もなかったら、後で謝ります! さあ、早く」

 と、ユーリの背中を押して、倒れたオーバンを跨いで家の中へと入っていった。
 家の中は、しんと静まり返っている。人の気配はないようだ。

「……彼女さん、いないな」

 ユーリが呟いた。

「……」

 ラーフラとソラヤは、静かに奥へと進んでゆく。
ユーリも、なんとなく息を潜めながら、その後をついて行った。

 すると、二人は一つの部屋の前で、ぴたりと足を止めた。

「ここ……ですね」

 三人で顔を見合わせる。
「俺が開けるよ」とユーリが前に進み出て、そっと扉を開いた。

 そこはどうやら、オーバンの寝室らしかった。
 ベッドが置かれた部屋の中は、ぼうっとした青白い光で淡く照らされていた。
ランプの明かりとは違う、冷たくひそやかな光だ。

 光の出所は、部屋の隅の、窓際に置かれた机の上。
 そこにあったのは、一枚の鏡だった。

 ナツメの実のような形の枠の中央に、丸い鏡がはめ込まれている。
首から上全体を映せるくらいの、そこそこの大きさの鏡だ。
それが、窓から射す月の光を集めて照り返すような、
けれどどこか妖しげな輝きを放っている。
 枠には繊細な装飾が彫り込まれていて、美しい品なのだろうけれど――
妖しく輝いているせいもあってか、ユーリはなんだか不気味さを感じた。

(形も……目みたいで、ちょっと怖いな)

 そう思って、ソラヤに教えてもらった一座の日誌とイザクの話が、ふと頭に浮かんだ。

  ――『お昼前に、少し散歩。イザク君が露店できれいな鏡を見つける』
  ――その夜……誰かに見られてるような視線を感じたんだ。

 露店の鏡と、視線。そしてここにある、目をかたどったような形の鏡。
ユーリの頭の中で、なんとなく、それらが絡まるように結びついた。

 ソラヤが、小声でささやく。

「あの鏡、なんだか変です。中で、何か動いてませんか……?」

 確かに……ぼうっと光る鏡面には、部屋の景色も三人の姿も映っていない。
何か、小さなものがちらちらと動いているのが見える。

 慎重に近づいてみて、三人は揃って、ああっと驚きの声を上げた。
 鏡の中心に、イザクそっくりの吸血鬼の姿が映っていたのだ。
 それに、吸血鬼と戦っている仲間達――どういうわけかアルハンも一緒にいる――の姿も、
天井近くから見下ろすような視点で、映し出されていた。

「こ、これって……もしかして、今の寄宿舎の様子が映ってるのか!?」

 ユーリが訊ねると、ラーフラも目を丸くしたまま、
「……そうみたいですね」と頷いた。

 鏡の中に、『人間の』イザクの姿はない。
 ユーリは呆然と呟いた。

「じゃあ……やっぱり、イザクが吸血鬼――?」

 ソラヤは困ったような、何か考え込むような表情で、かすかに首をかしげた。
ラーフラも、うーん、と首をひねって、

「いや――ええと、そうなんでしょうけど、やっぱり違うというか……」

 ユーリが「どういうことだ?」と聞くと、ソラヤが鏡を指さして、

「まず、これなんですが、常に中心に吸血鬼が――イザクが映っています。
 さっき、宿で話しましたよね。イザクが感じた視線のこと。
 その正体は、この鏡です。これが、ずっとこうしてイザクを追っていて……
 夜中に魔法が発動するときに、イザクにも視線として感じられたんだと思います」

 ラーフラも頷く。

「そしておそらく、露店にあった鏡もこれですね。
 一度、そこで姿を映したときに、魔法の標的になってしまったんでしょう。
 犯人は……露店の店主なのかオーバンさんなのか、わかりませんが……。
 それで、その魔法の効果でイザクは――」

 と、そのとき、鏡の中がぱあっと明るく輝いた。
イザクが腕で顔を庇って、苦しそうに後ずさっている。
 音が聞こえないので、向こうの様子はよくわからないが、
どうやらこの光はサニーの魔法のようだ。

「おおっ。押してるぞ」

 ユーリが声を弾ませる横で、ソラヤが心配そうに、口元に手をあてて、

「でも、これ、太陽の光の魔法ですよね。大丈夫でしょうか……?」
「そうですね……。下手したら、イザクが焼け死ぬのでは?」

 と、ラーフラも眉をひそめた。ユーリはぎょっとしてラーフラをふり返る。

「そ、そんな!
 ……ええっと、さっきの話だと、イザクは、
 この鏡の魔法で吸血鬼になってる……ってことなのか?
 鏡を――壊したら、元に戻せないかな?」
「それで合ってるはずです。鏡は壊してしまっていいでしょう。
 きちんと魔法を解除する方法もあるはずですが、今は時間が……」

 ラーフラがそう言って、ソラヤも頷いた。

「いいんだな? よし、それじゃあ……」

 ユーリは剣を構えた。
 炎の精霊が、ユーリの周りを跳ね回るように飛んでいる。
剣を見て喜んでいるのか、それとも応援かなにかのつもりなのだろうか。

「炎の精霊……どうせなら、お前も手伝ってくれよな」

 と、ユーリが苦笑すると――
炎の精霊は、頷くように、その場で弾むように上下に動いて、
ひゅっとユーリの剣めがけて飛んできた。

「――え!?」

 炎の精霊は刃の中に飛び込むように消えて――
剣身が赤く輝き、更にその周りを炎が取り巻きはじめた。
 思わず剣を取り落としそうになって、慌てて持ち直しながら、ユーリは声を上げた。

「な、な、なんだこれ! どうなったんだ!?」

 不思議なことに、見た目の割には、それほど熱さは感じない。
優しいくらいの温かさが、じんわり伝わってくる程度だ。

 ソラヤは楽しげな笑顔を浮かべている。

「今、ユーリが『手伝って』って言ったから、手伝ってくれるみたいですよ」
「なるほど! なんか、かっこいいな」

 ユーリは改めて剣を眺める。刃の中に、炎の精霊の煌めきが見えたような気がした。

 呆気に取られたようにその様子を見ていたラーフラが、
ふと何か思い出したようにまばたきして、「そういえば、」とソラヤを見た。

「さっき走り出したとき、ユーリが炎の精霊に、ソラヤと一緒に行くように言ったんです。
 そのとき、何か変だなと思ったんですが……。
 精霊に普通の言葉で話しかけて、通じるものなんですか?」

 それを聞いて、ソラヤはしぱりとまばたきしてから、
「あれ? 言われてみれば……変ですね」と首をかしげた。

「なんだかよくわかんないけど、行くぞ――!」

 ユーリは炎を纏った剣を、鏡に向かって突き出した。

 剣は鏡面の中心を貫き、二つに割り砕いた。鏡を縁取っていた枠に炎が燃え移る。
鏡から放たれていた青白い光が、ふっと消えた。
――その瞬間、ラーフラとソラヤは、鏡の魔力の気配も消え失せたのを感じた。

 割れた鏡は床に落ち、更に細かい破片になって、
焼けた枠の残骸も辺りに転がり、からんと軽い音を立てた。


 寄宿舎でイザクと対峙していた一同は、何か、ぶつりと糸が切れたような感覚を覚えた。

 その瞬間、イザクが目を見開いた。
ひゅっ、と、息を飲むような、かすかな悲鳴のような音を喉から漏らし、
がくんと膝から床に崩れ落ちて倒れた。
 菫色に染まっていた髪が、すうっと明かりが消えるように、元の黒髪に戻ってゆく。

「も……戻った、のか?」

 シェベットが呟く。

 一同は、そっとイザクの傍に近づいた。
 イザクの肌には血色が戻っていた。意識はないが、呼吸もしている。
あちこちに、太陽の光の魔法に焼かれた火傷のような傷が、
そのまま残ってしまってはいるが……。
 サニーが彼の手に触れてみると、先程とは違って、ちゃんと温かかった。
ほっとしながら、サニーは顔を上げた。

「もう一つの魔力の気配も消えた。向こうで何かしたのかもしれないな」

 シェベットは、疲れたような表情で、談話室の中を見回した。

「とりあえず、イザクは部屋に運んでやるか。
 ……ここは、散らかしちまったし」

 テーブルや椅子は薙ぎ倒され、壊れてしまっているものもある。絨毯も焼け焦げていた。
 アルハンが、どこか面白そうに、

「この分じゃ、報酬は部屋の修繕代に消えそうじゃなあ」
「……やっぱ、その金は俺達が出さないとだよな」

 肩を落とすシェベットの隣で、フィオナがアルハンに向き直り、

「それはともかく、アルハンも、ありがとう」
「うむ。久々に良い運動になったぞ。
 それじゃ、儂は帰るとするかの」

 アルハンは頷いて、黒いフードを被り直すと、窓枠に足をかけた。

「鎌は、もういいんじゃないかしら? 今度はレイスの噂が立つわよ」

 フィオナが声をかけると、アルハンは「それもそうじゃな」と笑った。
 空気をかき混ぜるように、鎌を軽く回すと、
鎌の刃はじわりと形を崩し、霧のようになって消えていった。
刃がなくなってみると、なるほど確かに、その柄は魔術師の杖のようだ。

 その様子を見ていたシェベットは、ふとあることを思い出し、アルハンに訊ねてみた。

「なあ、アルハン。
 前にもその格好で、俺達が冒険してる傍にいたことって、あるか?」
「と、いうと?」
「昔のあんたのことと、ラーフラがその弟子だってことを知ってた山賊が、
 死神みたいなものに連れて行かれた……ってことがあったんだ。
 その現場、俺達は直接見たわけじゃないんだが」

 それは、離れ離れになったソラヤの故郷の仲間を探して、
ダルヤの森を目指していたときのこと。

 エルフを捕らえて人買いに売り払おうと、山賊達が襲ってきたのだった。
 その頭領格の大男が、アルハン――『黒い霧のアラカ』とラーフラのことを知っていた。
 一行は山賊を撃退して縛り上げると、
とりあえず彼らをその場に置いて、森へと向かったのだが……。

 無事にソラヤの仲間を見つけて戻ってきたとき、大男の姿は消えていた。
怯えきった山賊の手下達は、大男が死神に連れて行かれたのだと言った。
彼らの話した死神の風貌というのが、ちょうど今のアルハンのようだったのだ。

「ああ……」と、アルハンは何か思い当たった様子で、冷たい笑みを浮かべて頷いた。

「あやつ、卑しそうな馬鹿面して、なかなか記憶力の良い奴じゃったなあ。
 あんな山賊でも、どこからどう話が漏れるかわからん。
 口を封じておかんと、ラーフラにとって良くないと思ってな」

 そう言って、アルハンはからからと笑った。

 つまり、やはりあの山賊達が言っていた死神の正体はアルハンで――
きっと、陰で一行の(というか、主にラーフラの)様子をずっと見ていたのだろう。
それでキュストーレ島で顔を合わせたとき、
ラーフラが冒険者になったことを知っていたのだ。

 ――そして、いなくなった山賊の大男は、おそらくもう生きてはいない。
 シェベットは深いため息をついた。

「やっぱりか。なるほどな。
 ……他にも聞きたいことがあるんだが、今はいいや」
「そうか? ふむ。それでは、また会おう」

 そして、アルハンは今度こそ窓から飛び去って行った。

「……そういうことだったのね、あれは」

 と、フィオナがなんとなく晴れない声色で呟いた。

 それから三人は、部屋の隅に転がっていたサニーの血の宝石をしっかり回収してから、
イザクを彼の部屋へと運んでいった。
 寝台にイザクを寝かせてやると、シェベットはふう、と息をついて、

「初めの目的は、一晩イザクを見てるってことだったし、一応ここで待機しておくかな」
「それじゃあ、あたしは広間に行ってるわね。
 きっと、ユーリ達が来るでしょうから」

 と、フィオナは部屋を出ていった。

 シェベットはサニーをふり返る。サニーは、壁に背を預けてうつらうつらしていた。

「えーと、お疲れさん。……あんたは、今度こそ寝てていいぞ」
「……。ユーリ達が戻ったら起こしてくれ」

 サニーはそう言うと、ずるずるとその場に座り込んだ。
抱えた膝に顔を埋めて、すぐに眠ってしまったようだった。
戦闘の疲れからか……それとも、本当はずっと眠かったのだろうか。
 シェベットは苦笑して、椅子に腰を下ろした。

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