5.庭園の館


 炎が地面を流れ、空からも炎が降る中、サニーはもう一度手のひらに炎を纏わせて、
シェベットを捕えている人食い花に掴みかかった。
 花に炎が燃え移り、サニーの手のひらも焼けたが、そんなことには構わず、
口を窄めている花を力いっぱいに押し開いた。ぶちぶちと花弁が引きちぎれてゆく。
花は茎を震わせ、葉をのたうたせていたが、やがて静かになった。

 ぐったりとしているシェベットの身体を、人食い花の中から引きずり出すと、
サニーは燃える花の傍を離れた。

「おい、シェベット。大丈夫か」

 シェベットは大きく呼吸をしようとして、ごほごほとむせ返り、
「あんまり、大丈夫じゃあ……ねえな」と苦笑いした。
身を起こそうとして、ぐにゃりとくずおれる。一人では立ち上がれないようだ。

「悪い。全然、力が入んねえ……。
 ――締まらねえなあ。俺が真っ先に死にそうになって……どうするよ」
「死なないさ。
 一緒に冒険に出た仲間全員揃って、生きて帰るんだろう?
 その中には、当然、お前も含まれているんだからな」

 サニーが言うと、シェベットは笑って、目を閉じた。
サニーはシェベットを背負い上げ、空から落ちたトゥスカの姿を探して、辺りを見回した。

 トゥスカは――炎と灰色の煙の中、地面に突っ伏して、しくしくと泣いていた。

「ああ……ああ、もう、終わりだわ。
 主様、ドミニク様、ごめんなさい……私は<庭園>を守れませんでした」
「何をしてる! 逃げないと焼け死んでしまうぞ」

 サニーが駆け寄って声をかけても、トゥスカは背を丸めたまま動かない。

「死んだっていいんだわ。
 主様もドミニク様も、もういらっしゃらない。<庭園>と共に、私も朽ちます」
「いいわけがあるか。
 <庭園>だって、これだけの炎で全て焼け落ちてしまったりはしない。
 主がもういないのなら、だからこそ、
 お前が生きて、遺されたものを守るんじゃないのか」

 先程まで歩いてきた<庭園>の中は、空気も湿って、風も静かだった。
そこまで燃え広がりはしないだろうけれど――
このままここにいれば、炎と煙に巻かれて死んでしまうだろう。
 トゥスカは、サニーを斜めに見上げてねめつけた。

「な……何よ。賊にお説教なんて、されたくないわ。
 だいたい、火を放ったのはあなたじゃないの……!」
「それは……そもそも、お前が私達の話を聞かないから――」

 言いながら、トゥスカもサニーも咳き込んだ。
煙の中では、言い合いをするのも苦しい。
「――とにかく、話は後だ!」と、サニーは片手でトゥスカの翼を掴んで、立ち上がらせた。
彼女は人間よりもかなり身体が軽く、そのまま引きずってゆけそうだ。

 しかし、シェベットを背負いながら、トゥスカの腕を引きながらでは、
どうしてもサニーの足は遅くなる。
吸い込む空気は熱く、ちりちりと肌が焼けるようだ。

 無事に逃げられるだろうかと、サニーが冷や汗をかいたとき
――どこからか、聞き覚えのある声が響いてきた。

『水の精霊よ。
 天の竪琴の、そのきららかなるつまびきを、慈悲深き恵みと楽の音をここに』

 ぽつり、ぽつりと、何かが周囲に落ちる音がしたと思うと、
水が雨のようにさあさあと降り注ぎはじめた。ソラヤが水の精霊を喚んだのだ。

 煙の向こうに見えた仲間達の姿に、サニーは心からほっとして、笑って息を吐き出した。

「ええと……あめの、竪琴? が、なんだっけ?」

 ユーリが、ソラヤの唱えた精霊言語の意味を復唱しようとして、首をひねった。
苦笑いするソラヤの横から、ラーフラが口を挟む。

「ユーリは、自分の言葉で言えばいいんじゃないですか?」
「そっか。水の精霊! 火を消すの、手伝ってくれ!」

 ユーリがかかげた剣の周りに、薄青く輝く水が渦巻く。
そうしてユーリが剣を振ると、水は長い刃のように伸び、地を走って、
炎を斬り裂くように消していった。

「せ……精霊魔法?」

 トゥスカが顔を上げて、何が起こっているのかわからないというような様子で、
ぱちぱちとまばたきしている。

「サニー! シェベット! やっと見つけた。迎えに来たぞ!」

 ユーリは爪先立ってサニーに手を振り、それからフィオナをふり返った。

「どうだ、フィオナ? 俺の新しい技!」
「すごいわ。これは……魔法なの?」
「そう――なんだよな?」

 と、ユーリはラーフラの顔を見た。ラーフラは頷き、

「一応、精霊魔法ということになるかと」
「結局、仕組みがちゃんとわかったわけじゃないんだけどさ。
 なんか、使えるみたいなんだ」

 ユーリは頭を掻いて笑うと、また水の精霊に呼びかけて、
くすぶる草や木に向けて剣を振るった。

 やがて、炎と煙がすっかり消えてしまうと、ユーリ達はサニーの元へ駆け寄った。

「ありがとう。助かった」

 サニーは煤で汚れた顔で笑った。
 辺りはまだ焦げ臭いけれど、水は静かに降り続き、
心地良く湿った風が吹きすぎていった。

「色々あったみたいね。……シェベット、大丈夫?」

 フィオナが声をかけると、シェベットは手を振ろうとしたのか、
重そうに腕を持ち上げたが、そのままぱたりとサニーの肩の上に落としてしまった。

「死にはしないが、ちょっと重傷だ。ソラヤ、治してやってくれるか?
 私は……少し疲れた」

 ソラヤは「任せてください!」と頷き――
シェベットを背負ったサニーの手が、ひどく傷ついていることに気がついた。

「……って、サニーも、怪我してるじゃないですか!
 終わったら、次、サニーも治しますからね」

 そんな様子を、ぽかんとして見ているトゥスカに、ラーフラが声をかける。

「あなたは? この<庭園>の方ですか?」
「は、はい。私は<庭園>の庭番で……。
 あのう、これは一体、どういう……? あなた達は……」
「僕達は冒険者の仲間なんですが――」

 ラーフラは、今までの経緯をトゥスカに話した。
 以前の冒険中にドミニク(の幽霊)と出会い、その際に彼からもらった庭園水晶を、
うっかり使ってしまったらしい仲間二人を探しに来た、と。

 トゥスカは、目を丸くしながら話を聞いて、
ようやく自分の早とちりに気がついたようだ。あああ、と、その場に崩れ落ちる。

「私……またやってしまったのね。
 ――主様にも、『お前は、その早とちり癖だけが玉に瑕だね』
 と、よく言われていたのに……」


 それから少しして、トゥスカは一行を高台の館の中に招き入れてくれた。
 吹き抜けになった天井には、大きな丸い硝子の窓――
いや、外よりも明るい日差しのような光を放っているそれは、
どうやら魔法の明かりらしかった。
 正面に大きな扉があり、左右に二つ、階段が二階へと続いている。

「出口は、館の中にございます。
 ですが――その前にどうか、少しお休みになっていってください。
 お詫びにもなりませんが、せめて、おもてなしをさせていただきたいんです……!」

 トゥスカは、シェベットとサニーに何度も謝りながら、一行を離れの浴室へと案内した。

 人食い花の粘液のようなものやら煤やらを洗い流し、花や薬草を浮かべた湯で温まる。

「ああー……生き返る……」

 シェベットは湯に沈み込むようにしながら、間延びした声を上げた。

「お疲れ様です」
「大変だったんだな」

 ラーフラとユーリが笑う。
「一時はどうなることかと思ったな」と、サニーも苦笑して言った。
 シェベットはすまなそうに眉を下げて、

「すまなかったな、俺のせいで、サニーも……
 お前らも、迷路やら何やら、苦労しただろ」
「迷路?」

 きょとんとするユーリとラーフラを見て、
シェベットとサニーは、あれ、という表情を浮かべた。

 話してみると、それぞれ<庭園>に降り立った場所が違っていたことがわかって、
お互いの話を詳しく聞いてみようか、と思ったとき、浴室の壁の向こうから、

「ちょっと。そんなところで、あなた達だけで話し込まないでくれる?」
「私達にも、色々聞かせてくださいよ」

 と、フィオナとソラヤの、ちょっと不満そうな声が響いてきた。
 壁の向こうには、彼女達が使っている、もう一つの浴室があるのだった。

「わかった。上がったら、みんなで改めて話そうぜ」

 シェベットは、そちらに向かってそう答えると、少し声をひそめて、

「なんで、浴室が二つもあるんだろうなあ。
 庭番のお嬢さんと主だけなら、一つでもどうにかなっただろ。
 そして、混浴の可能性があったかもしれないのに……」

 悔しそうに、拳で湯の面をぱしゃりと叩いた。
 何か想像したのか、ユーリの顔がみるみる赤くなってゆく。
ラーフラも、普段よりだいぶ血色が良く見える顔色で、

「ないですよ。そんな可能性は!」

 と、ばしゃんとシェベットの顔に湯を浴びせた。
それを手でかばいながら、けらけらと笑うシェベットを見て、サニーがぼそりと呟く。

「……まあ、くだらないことを言えるくらいの元気は出てきたわけだな」

 そのあと、みんなで館の広間に戻ってくると、正面の扉が開いた。
トゥスカが顔を出して手招きする。

「どうぞ、こちらのお部屋へ。ささやかですが、お食事を用意いたしました」

 そこは広々とした居間だった。
暖かく火の燃える暖炉を囲んで、テーブルと長椅子が置いてある。

 トゥスカは一行を長椅子に座らせると、暖炉にかけてあった鍋から、
根菜のたっぷり入ったスープライスをよそい、淡い金色の蓮茶を出してくれた。
 温かいスープライスは、根菜にも米にもよく味が染みていて、
蓮茶も爽やかでどこか不思議な風味が美味しい。

「精霊使い様のお仲間を、賊と勘違いしただなんて……。
 本当に、大変な失礼をいたしました」

 トゥスカはそう言って、また深々と頭を下げた。
 精霊は、邪な心の持ち主には決して力を貸さないのだという。

 シェベットは「もう、そんなに謝らなくていいって」と笑って、

「しかし、それじゃあ、ソラヤと……ユーリもなのか。
 二人のおかげで誤解も解けて、よかったよ。
 精霊はそういう、心の綺麗さとか、お見通しなんだな」
「そうだ。例えばお前は駄目だろうな。私はともかく」

 サニーがそう言って、うんうんと頷くと、シェベットは横目でサニーを見た。

「お前……俺達、『賊の二人組』と認識されたんだって事実から目を背けるなよ」
「そ、それは見た目の話――いや!」

 サニーはぐるっとトゥスカをふり返る。

「冷静になって見れば、見た目もそんなことはないだろう?」
「えっ? ……そ、そうですわね」

 トゥスカは曖昧に笑った。

「ほら、見ろ」

 勝ち誇ったような笑顔で、サニーはシェベットをふり返った。
「どうだか」と、シェベットは苦笑して肩をすくめる。

 ――と、そのやりとりを、ユーリ達が微笑ましげに見ていることに気がついて、
サニーははっと我に返ったような顔になった。

「……な、なんだ?」
「いや。サニー、今日はよく喋るなあって思って」

 ユーリがにこにこと言い、サニーは「そう……か?」と、
なんだか照れたような、少しばつが悪そうな表情を浮かべた。
 ユーリの隣で、ラーフラが笑いをこらえているような声で、

「というか、『賊の二人組』だと思われてたんですか……」
「それは……あの、本当に本当に、申し訳ございませんでした……」

 トゥスカは翼で顔を隠すようにしながら、下を向いた。

「まあ、無理もないのでは?」

 ラーフラは面白そうに言って、
「あ、スープライスおかわりください」と、器をトゥスカに渡した。
 フィオナも頷いて、

「実際、半分くらいは当たっているわけだしね」

 そう言って、蓮茶を一口飲むと、シェベットとサニーの顔を見た。

「それで、何があったのか、教えてくれる?」

 二人は頷いて、今までの経緯を話した。
 シェベットが部屋で片付けをしていた最中に、偶然、<庭園>への『扉』を開いてしまい、
異変に気がついて駆けつけたサニーも巻き込まれたこと。

「――そんで、気がついたら、俺達、生垣の迷路の中にいたんだけどさ。
 後から追っかけてきてくれたユーリ達は、館の裏庭? に来たんだよな。
 毎回、飛ばされる場所が変わるようになってるのかい?」

 と、シェベットが聞くと、トゥスカは「迷路の中に……?」と首をかしげた。

 普通はユーリ達のように、館の裏庭へ来るようになっていて、
他の場所に来てしまうことはない――はず、だったのだそうだ。
 シェベットとサニーが最初に降り立った場所は迷路の最奥で、
本当は、二人が迷路を出た場所が入り口だったらしい。
入る度に造りの変わる不思議な迷路で、きちんと入り口から最奥まで行くことができると、
なにやらちょっとした『いいこと』があるのだと、トゥスカが言った。

「へえ……面白そうだな。『いいこと』ってなんだろう? 挑戦してみたいな」

 興味を惹かれたらしいユーリが呟くと、
「結構、手ごわいぜ、あの迷路……」と、シェベットが思い返すようなまなざしで言った。

 トゥスカは考え込むような表情で、下嘴をさすった。

「でも……変ですわね。入り口がずれるなんて。
 今まで、そういったことは一度もありませんでした。
 ――と言っても、まあ、ここへいらしたのは、主様とドミニク様くらい……
 それと、ドミニク様と一緒に、
 甥のトーマ様も何度かお見えになったことがありましたけれど」
「……私が、割り込んだせいかもしれないな」

 と、サニーが腕組みした。

「何か魔法が発現するのなら、それを止めるつもりで行った。
 『扉』の魔法に抵抗しようとして、
 おかしなことになってしまったのかもしれない……」

 そう言って、サニーはふとため息をついた。
 持ち前の魔法への抵抗力が、なんだかいつも、
厄介事の引き金になっているような気がしたのだ。
 今回といい、死の魔法が血の呪いに変わってしまったことといい
――そのときは、抵抗できなければ死んでいたわけだけれど。

 サニーの表情が曇ったのに気がついて、シェベットが口を開く。

「でも、俺一人で飛ばされてたら、どうなってたか……箱庭のことだって、知らなかったし。
 サニーがいてくれて良かったぜ」

 サニーは目をしばたたかせ、なんだか複雑そうな表情を浮かべると、
「……そうか」と、小さな声で言った。

「主様とドミニクさんは、知り合いだったんですか?」

 ソラヤが訊ねると、トゥスカは首を横に振った。

「いいえ。ドミニク様が庭園水晶を手にされたのは、
 主様が亡くなられてから……だいぶ後のことのはずですわ」

 外界の時間の流れはよくわからないのですが、と首をかしげながら、トゥスカは言った。

 ドミニクは、(彼にしては珍しく)旅行へ出かけた際、
遠い街の古道具屋の片隅で、庭園水晶を見つけたらしい。
主が亡くなった後、どういった事情で水晶がそこへ巡り着いたのかはわからないが……。
 水晶が<庭園>の入り口であることも伝わっていなかったようで、その店の主人は、
「魔力が篭っているようだが、どういったものなのかわからない」と言っていたという。

 けれど、庭園水晶そのものが気に入ったドミニクは、すぐにそれを買って――
屋敷へと帰ってきた後、部屋で眺めながら、本当に偶然に、呟いたのだった。

「まるで石の中に庭園があるようだ。
 もし、本当にそうだとしたら、行ってみたいものですね」

 と。
 そして、<庭園>にやって来たドミニクはトゥスカと出会い、話すうちに打ち解けて、
<庭園>の美しさにも魅せられ、何度も足を運ぶようになったのだそうだ。

 その話を聞いたシェベットが、少し口を尖らせるようにして言った。

「<庭園>に来たきっかけ、ほとんど俺と一緒じゃねえか。
 ……ドミニクさんのことは、賊だとは思わなかったのかい?」
「えっ……ええっと、あの――はい。
 そのう、ドミニク様は、主様に少し雰囲気が似ていらっしゃったこともありまして……」

 トゥスカはうつむいて、まごまごと言った。

「あんまり、困らせるものじゃないわ」

 とフィオナが釘を刺し、「悪い悪い。冗談だよ」とシェベットは笑った。
 ソラヤがふと、呟くように言った。

「……幽霊になると、もう、ここには来られないんでしょうか」
「そう……なのでしょうね」

 トゥスカは、少し寂しそうな微笑みを浮かべ、
それから、「でも!」と、明るい声を上げた。

「もしよろしければ、また、皆様においでいただけましたら嬉しいですわ。
 <庭園>の中も、きちんとご案内させていただきたいですし……。
 それに、主様は――冒険者とは違いましたが、世界中を旅されていた方だったのです。
 訪れた場所の記憶や、見聞した知識や歌など、様々なものをこの館に遺してくださっています。
 それらも、ご覧になっていただいて構いませんわ」

 それを聞くと、ラーフラが眉を動かして、

「それはありがたい。ちょうど、調べたいことがあったんですよ」
「でも、一度、宿へ戻らない? マスターも心配していたし」

 フィオナがそう言うと、ラーフラは頷いた。「そうですね。また、近いうちに来ましょう」
 トゥスカが、あの、とラーフラに声をかける。

「何をお調べになりたいのですか?
 差し出がましいかもしれませんが……よろしければ、私の方で探してみますわ」
「そうですか? それじゃあ……」

 ラーフラは、ちらりとユーリを見て、またトゥスカの方に視線を戻した。

「精霊言語を使わずに、精霊に呼びかける方法を……
 もしくは、そういうことが出来た人の話などがあれば。お願いします」
「あっ、その話かあ。それも気になるけど……俺は迷路も気になる」

 と、ユーリは真面目にも冗談にも聞こえるような様子で言って、腕組みした。
 トゥスカは、ちょっと首をかしげてまばたきしたけれど、頷いた。

「承りましたわ。
 迷路もぜひ、挑戦してみてくださいませ」

 そうして、六人ががたがたと席を立つと、
トゥスカがシェベットの方に跳ねるように駆けてきた。
何度目かわからない謝罪を述べ、シェベットは「だから、もういいって」と笑って手を振った。
 それから、トゥスカはサニーの近くにもやってきて、また頭を下げた。
サニーは苦笑して、

「いや……私の方こそ、すまなかった。
 こんなに素晴らしい箱庭を、傷つけたくはなかったが――」

 そう言うと、「仲間の方が大事だった」と、
トゥスカ以外には聞こえないくらいの、小さな声で付け足した。
トゥスカはにっこりと笑う。

「ええ。大丈夫です。植物達はまた芽吹きますわ。
 ――あの子も、根さえ残っていれば、しぶとく復活しますから」

 人食い花は、主が昔、旅先で出くわした魔物を元に、
<庭園>によからぬ者が侵入したときの防犯用にと、創られたものなのだそうだ。
 サニーはふむと頷いた。

「根か。覚えておこう。いつかどこかで遭遇するかもしれないしな」
「……ご勘弁願いたいもんだ」

 と、シェベットは身震いした。


 館の居間から出ると、ふとサニーが足を止め、二階の方を見上げた。

「――少しだけ、二階を見てもいいか?
 どうも……館へ入ったときから、気になる感じがあって……」
「気になる感じ?」

 ユーリが聞き返すと、サニーは曖昧に頷いた。
 なんだか、呼ばれているような、妙に惹かれる気配を、二階のどこかから感じるのだ。
 その感覚を説明するための上手い言葉が見つからなくて、サニーは口ごもったが、
「行ってみましょうか」とフィオナが言ってくれて、みんなも頷いた。

 一行はトゥスカと共に、二階へと上がった。
吹き抜けを囲むように、廊下がコの字に伸びていて、たくさんの扉が並んでいる。

 サニーはまっすぐに、その扉のうちの一つの前までやってきた。

(なんだろう……この感じは……)

 扉の前に立つと、惹きつけられるような雰囲気は一層強くなった。
 背後で、「この部屋は?」と、シェベットがトゥスカに訊ねているのが聞こえたけれど、
サニーはその答えを待たずに、扉を開いた。

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