6.道の先には


 ロゼの案内でやって来たのは、村の宿屋だった。
そこそこ大きな建物で、客室も多いように見える。

(結構、泊まりに来る人がいるのかな……?)

 ユーリはかすかに首をかしげた。

「ここの料理が美味しいのよ」

 と、ロゼが宿の扉を押し開けた。しゃらしゃら、と、扉の内側で、連ねた鈴の飾りが鳴った。
ロゼの後に続いて、一行もぞろぞろと宿へと入ってゆく。

 シェベットはラーフラを小突いて、こそりと声をかけた。

「お前……せめて、食う量は自重しとけよ」
「わ……わかってますよ。流石に僕だって、そういうことはわきまえてます」

 胸をそびやかすラーフラを、シェベットは胡乱げなまなざしで見た。

 宿の食堂では、村で採れた新鮮な野菜や、山のキノコや山菜を使った料理が出された。
それから、自家製だという肉の塩漬けとパンも。
 一行は食事をしながら、村までの道のりや、今までの冒険の話をロゼに聞かせた。
 そして、ソラヤが冒険者になったきっかけを話したとき、
ソラヤは「あっ」と、思い出したようにロゼをふり返った。

「――そうだ。さっき、村の子供達が……
 少し前に、この村でエルフが治療を受けていた、って言っていて。
 どんな人でしたか? どこから来たとか、言っていませんでしたか?」

 訊ねられて、ロゼは食べていた野菜のサラダをごくんと飲み込み、

「髪は――あなたよりちょっと青っぽい感じの緑色の、男の人よ。
 名前は、テイムって言ってたわね。
 怪我と……治りかけだったけど、結構根が深い火傷もしてて、しばらくうちで診ていたの」

 天井に視線を向けて、記憶を辿るようにしながらそう言って――
はっとした様子で、ロゼはソラヤと目を合わせた。

「そういえば、住んでいた森に、竜やら魔物やらが押し寄せてきて、逃げてきたって言ってた!
 もしかして――」

 ソラヤは口元に両手をあてて、何度も首を縦に振った。

「私の故郷の――ラダンの森の者です。
 ……良かった、無事でいてくれて……」

 最後の方は独り言のように言って、ソラヤは改めて、ロゼをまっすぐに見た。

「先生。テイムを助けてくださって、ありがとうございます」

 ロゼは目を見開いた。その瞳が不意に揺れて――
ロゼは、何かをごまかすように、ぱっぱっと両手を胸の前で振って笑った。

「そんな、命に関わるほどの怪我じゃなかったし……私は医者だもの、当然のことだわ。
 ――テイムさんは、山を下りて行ったわよ。サンドリタとは、逆方向になんだけど。
 どこだかに、エルフの住む森があるらしいから、そこを目指すって。
 こんなことなら、詳しく聞いておけばよかった、わね……」

 言葉尻が震える。ロゼはうつむいて、目元を拭うと、顔を上げて笑って、

「ごめんね。なんだか……嬉しくなっちゃった。
 医者として、当然なんだけど――やっぱり、誰かを助けられることも、
 それを喜んでくれる人がいることも、良かったなって思うと……
 ちょっと、うるっとしちゃって」

 ソラヤはそんなロゼを、本当に小さな女の子を見るようなまなざしで見て
――実際、ソラヤからしたら、ロゼは子供のような年齢なのかもしれないけれど――、
そっと微笑んで、訊ねた。

「先生の、お医者様になろうと思ったきっかけって、聞いてもいいですか?」

 ロゼは「そんなに、面白い話じゃないけど、」と、
なんとなく恥ずかしそうに肩を縮めながらも、頷いた。

「私は、ドワーフの都市じゃなくて、
 ここみたいな……でももっと田舎の村で生まれたんだけどね。
 小さい頃に、病気で死にかけたことがあるの。
 村には医者がいなくて、親も周りの人も、もう諦めてたみたいなんだけど……
 そのとき、たまたま村にやって来た旅の人が、医者だったの。
 その人に助けてもらったおかげで、なんとか助かったのね」

 そこで一口、香草茶を飲んで、ロゼは言葉を続けた。

「大きくなってから――あ、あんまり大きくはならなかったわけだけど。
 改めてそのことを考えてみて、とても怖くなった。
 そして……命の長さや人生の道を、生まれた場所に決められちゃ、いけないと思ったの」

 そうして、たくさん勉強をした末に医者になることができたロゼは、
幼い頃の自分を助けてくれた人のように、しばらくは旅暮らしをしていたのだった。
 けれど、旅の途中で辿り着いた、
故郷に似た雰囲気の――そのときは故郷と同じように、医者のいなかったこの村に、
腰を落ち着けてみることにしたのだという。

「医者のいない村に生まれたせいで、長生きできないなんて、嫌だものね」

 ロゼの言葉を聞いて、ユーリははっとした。
自分の故郷にも、医者も治療院もなかったことをロゼに話して、

「――俺の兄ちゃん、今、開拓地で薬師の勉強してるんだ。
 きっと、先生と同じ気持ちで働いてるんだと思う」

 そう言うと、ロゼは微笑んだ。
 シェベットが、ふむ、と頷いて、
「人生の道か」呟くように言うと、フィオナの方に顔を向けた。

「お嬢様に生まれたから、冒険者になっちゃいけない、なんてこともないってことだな」

 フィオナは、香草茶を飲もうとして持ち上げかけていた姿勢で動きを止め、
それから、ゆっくりと香草茶をテーブルに戻した。
 ロゼはきょとんとしてフィオナを見て、

「お嬢様生まれなの?」

 訊ねられて、フィオナは控えめに頷いた。ロゼは、そうなんだ、と呟いて、

「そういう冒険者さんは、珍しいのかもね。
 人と違う生き方って――辿る人が少ない道って、実際の獣道と一緒で、
 険しくて……大変なことがたくさんあるものよね」

 遠くを見るような目をしてそう言うと、ロゼは左手を自分の胸にあてた。

「ほら、私って、こんな見た目だから。
 一目で、私が医者だってわかってもらえることだって、滅多にないし。
 私が医者です、って言って、納得してくれれば、まだいいんだけど……
 『ごっこ遊びは、また今度ね。大人の先生はどこかな?』なんてことを言う人までいるのよ」
「なんと失礼な。見た目で判断する輩は、許せませんねえ」

 小柄で細身なラーフラも、似たような経験があるからか、
憤慨した様子でそう言って、塩漬け肉をぐさりとフォークで突き刺した。
それを口に運ぶと、表情はあっという間に、幸せそうにとろけてしまったけれど。
 ロゼはそれを見て、ちょっと笑いながら、

「失礼しちゃうけど、まあ、仕方ないのよね。
 もし、おちびの医者が、当たり前にたくさんいる世の中なら、そんなことはないんでしょうけど。
 ――だけど、自分で選んだ道だもの、辛くはないわ。そうでしょ?」
「……はい」

 フィオナは、今度は大きく頷いた。

 シェベットでさえ、初めて会ったときは、長剣を下げたフィオナを妙に思っていた。
 そしてフィオナ自身も、幻術でアルーエットの姿になったとき、
少女と剣の取り合わせが変ではないかと、少し不安になってしまったけれど……。

 家で仕立ての良い服や、綺麗なドレスを着ていた頃よりも、
今の、革鎧を着込んで長剣を持った冒険者の姿の方が、ずっと自分らしいと、フィオナは思った。
 これからも、出会う人に奇妙に思われることもあるのだろうけれど、それでも。


 食事のあと、一行は少し宿で休ませてもらうことにして、ロゼは診療所へと戻って行った。
 シェベットが、長椅子の背にもたれて、ふうっと息をついた。

「やっぱり、ちゃんとした食事ができると落ち着くな」
「そうだな。でも、昨日のスープも、本当に美味しかったよ」

 ユーリがそう言って、他のみんなも頷いた。
シェベットは「あんま褒めるな。何も出ないぞ」と笑うと、ソラヤの方を見て、

「ところで、テイムさんだっけか。
 手がかりがあって良かったけど……追いかけるなら、帰るのとは方向が逆なんだよな」

 ソラヤはにこにこと笑いながら、首を横に振った。

「今は、彼の無事がわかっただけで、十分です。
 まだ仕事は終わってませんし、帰りましょう」
「そうか。薬代を届けなきゃいけないんだったな」

 シェベットは腕組みして頷いた。サニーがぼそりと呟く。

「今度は、『馬車酔い』は出来ないな」
「そういえば、そうだったわね……」

 と、フィオナが首をひねった。

「それは――どうしようか。何か考えねえとな……」

 シェベットは仰向いて、頭を掻いた。
 二度も続けて、顔を見せられない状態になっていると言い訳するのは、
流石に不審に思われるだろうか。
そうでなくても、『妖精のとまり木亭』には、なんだか虚弱な冒険者がいるようだ、
という印象をフィリップに与えてしまって、今後の依頼に影響が出るかもしれない……。

 どうしたもんか、と考えながら、シェベットは首を動かして、ラーフラを見た。
 ラーフラは、シェベットがテイムの名前を出した瞬間から、
何か言いたげに、ちらちらとソラヤを見ていたのだった。

「――そういや、ソラヤはテイムさんとは仲良いのかい?」

 おそらくラーフラが気にしているであろうことを、シェベットはずばり聞いてみた。
ラーフラは、ぎょっとしたようにシェベットに視線を向けた。
 ソラヤは小首をかしげて、

「うーん……そうですね、友人です。
 そんなに、たくさん話したりするわけでもなかったですが」
「なるほど」

 シェベットは頷くと、なんだか明らかにほっとしているラーフラに、小声でささやいた。

「――だとよ。良かったな」

 ラーフラはびくっと肩を震わせて、それからわざとらしい咳払いをすると、

「なっ……何がですか?」

 と、シェベットから目を逸らしてしまった。
その様子がおかしくて、シェベットは笑いたいのをこらえながら、
またソラヤに向き直った。

「まあ、テイムさんのことは、帰ったら情報探してみるよ。
 また今度、探しに行くなりしようぜ」


 一行は、今日はこの宿に泊まってゆくことにした。
 客室はちょうど六部屋、全て空いていて、
「部屋は使わないと痛んでしまいますので、もしよろしければ」と、宿の主人の厚意で、
一人一部屋ずつ、かなり安く貸してもらえることになったのだった。
 宿の主人が、寝台の覆いの布を取ったり、部屋を使う準備をしてくれている姿を見ながら、
ユーリは訊ねた。

「いつもは、どんな人が泊まりに来るんだ?」
「泊まりのお客様は、最近は滅多に来ないんですよ。
 ……昔は、この先にも――ロゼ先生が診ていらしたエルフさんが行かれた方角ですね。
 そちらにも、小さな村や集落がいくつかあったんです。
 そこへ行く行商人さんなんかが、よく利用してくださっていたんですが」

 宿の主人は、少し寂しそうに言った。

「そちらの方は、地滑りが起きやすい場所でしてね。
 土地が荒れて、だんだんと住む人がいなくなっていったんです。
 最後に残っていた村も……もう十年以上前になりますが、
 賊の襲撃に遭い、滅びてしまいました」
「そうなのか……」

 ユーリは窓から外を眺めてみた。
 宿は村の高台にあって、客室の窓からは、村の景色が一望できた。
でも、今はもう無いという村々の方角へ続く道がどこにあるのかは、わからなかった。
 宿の主人は気を取り直すように、にっこりと笑った。

「近頃は、ほとんど食堂としてやっていたようなものだったんです。
 久しぶりに、宿屋としてお客様をお招きできて、嬉しいですよ。
 ごゆっくりおくつろぎになってくださいね」


 その夜は、月の光が煌々と灯っていた。
 窓を開けると、夜の冷たい風が吹き込んできて、ユーリは目を細めた。
村は月光の海に沈んでしまったように、青白く染まっている。
水車の回る音が遠く聞こえた。

 ――と、宿の外に、誰かが立っていることに気がついて、ユーリは窓から顔を出した。
 フィオナだ。
外套を着込み、木の柵に手をかけて、村の景色を眺めるようにしている。

(何してるんだろう?)

 本当に、ただ景色を見ているだけかもしれないけれど――
なんだか気になって、ユーリは外套を抱えて、外に行ってみることにした。

 宿を出て、フィオナの方へ小走りに近寄ってゆくと、
足音に気がついたのだろう、フィオナがこちらをふり向いた。

「ユーリ。どうしたの?」

 聞こうと思ったことを先に言われてしまって、ユーリは外套を羽織りながら笑った。

「フィオナ、どうしたのかなって思って」

 ユーリがそう言うと、フィオナもかすかに笑顔を浮かべたけれど、
その笑みはすぐに、花がしぼむように消えてしまった。

「少し……考え事をしていたの」

 声を落として、フィオナは言った。
そうして、言葉を続けようか迷っているように見えたので、
ユーリは、「どんな?」と訊ねてみた。
 それに背中を押されたように、フィオナは口を開いた。

「……小さい頃の話だけれどね。
 あたしも、それなりに騒がしくて、お喋りな子供だったのよ。
 でも――大きな声を上げても、笑っても泣いても、静かにしなさいと父に叱られたわ。
 淑やかにしていなさい、って。
 その通りにしたら、だんだん、うまく笑ったり泣いたりできなくなった」

 そう言ったフィオナの顔が、ふと一瞬、
ハルネス薬店にあった、幼いフィオナの絵と重なって見えた。
 無表情に、こちらを見つめる顔。
 絵の中のフィオナが着ていたドレスは綺麗だったし、靴もぴかぴかしていたけれど、
あんな人形のような格好では、今のフィオナのように剣を振るったり、
山道を歩くことはできないだろう。

 ユーリは、一呼吸置いて、言った。

「俺は、フィオナの笑った顔、好きだよ」

 確かに、フィオナはあまり、くるくると表情を変える方ではないかもしれない。
けれど、ユーリの記憶の中には、フィオナの笑顔はたくさんあった。
うまく笑えない、なんてことはないように、ユーリには思われた。

「……今は、そうね、少しはできるようになったのかもしれないわ」

 と、フィオナは顔をうつむけて、

「妖精のとまり木亭に来てから、本当に気持ちが楽になったから。
 もちろん、仕事は大変だけれど。
 それで……アミナに言われたことが、結構、久しぶりに、ぐさっときたのよね」

 そこで言葉を切って、フィオナはひとつ肩で息をついた。

「少し、思ったの。
 あたしが悩んでいたことなんて、大したことじゃなかったのかもしれない、
 そして、家を出て、今ここにいることも、間違いだったのかも……しれないって」

 ユーリは驚いて、慌てて首をぶんぶんと横に振った。

「そんなこと、ないって!」

 言いながら、思わず、フィオナの両手を握っていた。
弾かれたように顔を上げたフィオナの目を、ユーリはまっすぐに見て、

「フィオナの気持ちは、フィオナのものだよ。
 誰かに――アミナや、たとえフィオナの父さんでもさ、何か言われたって、関係ないよ!」

 フィオナは目を丸くしてユーリを見ていたけれど、
少しして、やっと声の出し方を思い出したような様子で、
「……あ……、あの、」と、ユーリの顔と手を交互に見やった。

「その……痛いわ」
「えっ? ――あ! ご、ごめん!」

 無意識に、かなり力を込めて握ってしまっていたフィオナの手を離し、
視線も逸らして、ユーリは頭を掻いた。

 小さくフィオナが笑い声を漏らしたのが聞こえて、ユーリは目を上げた。
 フィオナはおかしそうにくすくすと笑い、それからすっと目尻を指で拭うと、

「ありがとう」

 と、ささやくように言った。

 頷いて、やっぱりこの子の笑顔って好きだ、とユーリは思って――
不意に、今、自分が考えたことが、なんだか恥ずかしくなった。
 かすかに頬が熱くなったような気がしたけれど、
この夜の暗さの中でなら、おそらく顔色を悟られることはないだろう。

 そのとき、背後で、しゃらら、と鈴の音が聞こえた。
宿の中から、仲間達が揃って出てきて、二人の方へとやって来た。

「みんな! どうしたんだ?」

 ユーリが声をかけると、

「それは、こっちの台詞だぞ」

 と、サニーが眉を寄せて言って、ラーフラは首をかしげた。

「なんだか、大きな声を出してませんでしたか?」
「ご……ごめん」

 ユーリは肩を縮めた。
宿の中まで聞こえるほど、大きな声を出してしまっていたらしい。
村の方にも響いたかもしれない、と思うと、申し訳ないような気持ちになった。
 フィオナは笑って、

「ちょっと、話を聞いてもらっていたのよ。
 よかったら、みんなも聞いてくれる?」

 みんなが頷くと、フィオナはユーリに話してくれたことを、みんなにも聞かせた。
 けれど、その表情は先程よりも明るく、最後に、
「――って、さっきまでは考えていたのだけれど、」と付け加えた。

「たぶんね、父の敷いてくれた道を行けば、一生、穏やかに暮らせるんでしょう。
 剣を振るう必要なんてなくて、優しい人と結婚して。
 ……でも、それが本当に幸せなのか、あたしにはわからないの。
 全てを人に用意してもらって、それに任せるだけの一生って、
 それは……あたしの人生と言えるのかしら?」

 ゆっくりとそう言って、フィオナは、真剣に耳を傾けてくれている仲間達の顔を見回した。

「もう少し、この道を行ってみたいと思うの。
 あたしが、自分で選んだ道を」

 心に決めたことを、誰よりも自分自身に聞かせるように、フィオナは言った。
 仲間達はみんな、笑顔で頷いてみせてくれた。

「一緒に行くよ。
 俺の道も……いつまでかはわかんないけど、
 きっと、当分はずっと、フィオナの道と同じ方向だよ」

 と、ユーリが言った。

「おっと。そこは、俺『達』に訂正してくれよな」

 シェベットが、両隣のラーフラとサニーの肩に腕を回して、そう言った。
 それを見たソラヤが、

「もちろん、私もですよ!」

 と、シェベットの反対側から、ラーフラの肩に手を置いた
――ラーフラの顔が、火が点いたように真っ赤になったことには、気がつかなかったようだ。

 フィオナは目を伏せて、深く頷いた。


 翌朝、村を出る一行を、ロゼは見送りにきてくれた。
「あのね、」と、フィオナに声をかける。

「昨日、色々と語っちゃって、あのあと、また一人で色々と考えてみたのね。
 どんな獣道でも、歩いていて辛くないのって、靴のおかげかも」
「……靴?」

 フィオナは首をかしげて、聞き返した。

「そう、履いてしっくりくる、自分に合った靴。
 私は『医者』っていう靴が合ってるし、
 あなたには、『お嬢様』より『冒険者』の靴が合ってたんだと思う」

 ロゼは言いながら、自分で頷いて、

「たとえ、どんなにしっかり敷かれた道でも、
 合わない靴で無理に歩いていたら、そのうち足を痛めて、進めなくなってしまうでしょ?
 道の先に、見たかった景色があるとは、限らないかもしれないけど……
 歩かなければ、進まなければ、見つけられないものって、きっとあるわ」

 その言葉は、道を照らす篝火のように、フィオナの心の中に灯ったような気がした。

「ありがとう、先生」
「こちらこそ」

 ロゼは微笑んで、がんばってね、と、フィオナの腕をぽんと叩いた。


 そうして一行は、ロゼに見送られて、村を出たのだった。

 獣道のような山の道を歩きながら、フィオナは、ロゼの言葉を思い返し、
そして、ぼろぼろの靴を履いていたアミナのことを思い出していた。
 フィオナの道とアミナの道が、また交わって、再び出会うことはあるだろうか。

(あの子にも、またどこかで会えたら……)

 会えたら、いいな、と、フィオナは思った。

 できることなら、戦う敵同士としてではなく、もっと別の形で。
 新しい靴を履いた彼女と。




(九十九折の道・おわり)

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